独立行政法人 労働者健康安全機構 熊本労災病院

院長挨拶

 本日も、熊本労災病院のHPを訪れていただきありがとうございます。
 11月に入り、急に肌寒い日が増えました。金木犀の香りもピークを過ぎたようです。阿蘇にドライブする機会がありましたが、一面のススキと低い気温に冬の訪れを実感しました。その阿蘇も、多くの観光客が訪れ、一時の寂しさが嘘のようでもありましたが、ここに来て、再び、新型コロナウイルス感染が広がりを見せています。
 熊本県内では爆発的ではない感染発生ですが、ゼロにはならずに継続しており、また重症入院患者さんもおられ、じわじわと医療への影響も感じられるようになっています。北海道、東京、関西は爆発的な広がりが見られつつあります。気温の低下と乾燥が影響しているという専門家も多いですが、きれいに北から広がりが始まっているわけでなく、やはり人の動きの増加は影響していると思われます。経済への影響もあり、国が一律に動きを規制することは当面ないと思われ、また私たち国民も、どう感染拡大を防ぐか、この半年でかなり学習してきており、手洗い、マスクなどの「自助」を第一に、移動にも自省を加えつつ行動する習慣を維持したいものです。ただ、病院は、合併症を持ち、また免疫力が低下した患者さんも多数おり、ウイルスの持ち込みは極力さける管理をしなければならないことは言うまでもありません。他地域での感染拡大をうけて、再度、面会禁止措置をとりました。荷物の受け渡し以外の面会を禁止としています。当院は、二種感染症対応医療機関ではありませんが、熊本県からはコロナ対策の重点医療機関に指定もされており、もし入院が必要な感染者がでれば即応できるような準備はしています。救急外来横にプレハブも準備し、「検査・診療医療機関」として、インフルエンザも含めた発熱患者への対応を行います。ご心配があればまずご連絡いただければと思います。
 先日、当院で行われている「八代がんサロン 秋桜 cosmos」が設立10年を迎え、対面の会が久しぶりに開かれました。がんサバイバーである樽海哲子さんが、設立からずっとお世話を続けてこられ、今日に至りました。がんサロンは、病院院内のものと地域でのものと二種類ありますが、今では県内各地に30ものがんサロンが設立されています。がん相談員である看護師さんが少しお世話はしますが、基本的に、患者さん同士のゆるーいつながりで運営してこられました。私も、がん治療経験者として参加することもできますが、今はささやかに支援に徹する立場です。県内最初のサロンはやはり10年前の4月、八代より少しだけ前に熊本大学病院で作られ、奇しくも当時私は大学病院の院長でしたので、山崎記念館という古めかしい会場でなんとなく手探りで始まった集まりに参加させていただいた覚えがあります。この10年間で、種々の治療手段による治療成績の向上はもちろんですが、支持療法、それにこのがんサロンや緩和ケアなど、患者さんのケアに主眼を置いた支援の様相も大きく変わりました。国の施策の広がりもありますが、患者さんたちに求められるものが、患者さんたちご自身の努力と医療者の気持ちに支えられて、自然と育まれたように思います。
 がん治療に新たな扉を開いた功績から2018年にノーベル医学生理学賞を受賞された、京都大学の本庶 佑 教授の顕彰碑が京大医学部に建てられ、同窓としてそれにわずかな寄付をしたところ、お礼として、最近、著書である「幸福感に関する生物学的随想」(祥伝社)というのが送られてきました。驚くことに、表とびらには、「猪股裕紀洋先生 恵存 本庶 佑」という、墨書直筆の添え書きがありました。恵存という言葉を恥ずかしながら初めて見ましたが、「お手元に保存していただければ幸い」の意味だそうです。おそらく、数千人以上の方が寄付をされたと思います。報道でみるいつも厳しい表情とは裏腹に、寄付者お一人ずつにこのような手間を惜しまないお礼をされる律儀さを感じました。決して暇ではないと思うのですが、、、。私は大学で直接教えを乞うたことはありませんでしたが、私の外科のボスと同級でもあり、また昔から学内でも著明な研究者でもありましたので身近には感じておりました。自伝的ではありますが、内容からは、研究と新たな知見を見いだす楽しみが溢れだしていて、豊かな気持ちにさせられました。一方で、現在の日本の生命科学分野における予算の少なさ、若手研究者が大学院に進まなくなっているというような研究環境の悪化に強く警鐘を鳴らしています。がんのみならず、基礎医学研究の重要性はみな頭では解っていますが、目先の課題処理に追われ、生活に追われ、何しろ日本全体でお金が無い状態で、将来の科学立国は風前の灯火です。このコロナ禍、生活維持で手一杯という風潮はますます強くなっています。当院も、一部で老朽化は著しく、医療安全上の問題すら生じかねませんが、来年度の予算は極めて厳しい状況で、ずっと念頭に置いている全面建て替えなど夢のまた夢、です。ただ、少しでも先を見据えながら、希望だけは失わずに、コスト削減と安定的な運営の努力を続けようと思います。
 インフルエンザの予防接種は受けられたでしょうか。幸い、今のところ、コロナ予防策の恩恵か、その発症は極めて少ないようです。油断せず、予防に気を遣いながら、せめて少し心安らぐ年末を迎えることができるよう頑張りたいと思います。

猪股裕紀洋
熊本労災病院 院長 猪股裕紀洋
熊本労災病院 院長

猪股 裕紀洋

略歴

1977
京都大学医学部卒業
1983
国立小児病院レジデント
1987
京都大学大学院卒業 医学博士(京都大学)
1991
アイオワ大学外科留学
1996
京都大学大学院助教授
2000
熊本大学医学部附属病院小児外科教授
2005
熊本大学大学院教授(小児外科学・移植外科学)
2009-2013
熊本大学医学部附属病院 病院長
2017
熊本労災病院 院長

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