院長挨拶
令和6年4月より熊本労災病院に着任致します、松岡雅雄と申します。私は1982年に熊本大学医学部を卒業し、熊本大学医学部第二内科に入局しました。丁度、1981年に京都大学の高月清先生が第二内科教授になられ最初の入局となりました。高月先生は成人T細胞白血病(ATL)を発見された著名な医師であり、その優れた臨床的洞察力から高月病(現在はPOEMS症候群と呼ばれることが多い)も報告されています。第二内科は大学では主に血液疾患、膠原病を診療・研究していました。私は、その時点では治すことが難しい病気に取り組みたいと考え第二内科の門をたたきました。その当時は悪性リンパ腫の治療成績こそある程度良かったのですが、白血病、多発性骨髄腫は治療が非常に困難でした。特にATLは予後が悪く、自分の無力を自覚することが多い状況でした。大学院からATL、ヒトT細胞白血病ウイルス1型の研究に取り組みました。1999年から京都大学ウイルス研究所に異動して研究に取り組み、2016年に血液・膠原病・感染症内科学講座の教授として戻って来ました。ATLは血液幹細胞移植、新薬の開発により予後が改善しつつあり治癒と言える患者さんが増えていることが大きな喜びです。
白血病の治療が実際に始まったのは、1947年のアミノプテリンの急性リンパ性白血病患者さんへの投与からです。当然、単剤の投与で治癒は見込めませんが、一時的にせよ寛解がもたらされたのは画期的なことでした。この知見を基にがんを薬剤で治療するという試みが始まった訳です。それから70年余りで、かなりの頻度で白血病が治る時代になったことに驚かされます。それは抗癌剤・分子標的薬剤の開発、血液幹細胞移植療法の発展、支持療法の充実などによるものです。私はカリフォルニア大学バークレー校に留学しましたが、その時の学科長はJames P. Allison博士でした。彼は免疫チェックポイント療法の開発によってノーベル賞を受賞しています。彼は元々、基礎免疫学者でしたが、免疫抑制に関わる分子を発見し、それが臨床応用できると確信してニューヨークのメモリアルスローンケタリングがんセンターへ異動して治療法を開発しています。このダイナミクスが米国の大きな強みです。がん治療は今後、さらに爆発的な発展が期待できる状況となっています。現在、日本人の2人に1人ががんを患う時代になりましたが、多くのがんを治すことができる時代が訪れようとしています。熊本労災病院で、多くの方々の癌を治癒させることができるよう尽力したいと思います。
日本が世界に誇る国民皆保険という素晴らしい制度は健康福祉に大きく貢献し日本は長寿国として知られるようになりました。しかし、この制度は医療従事者の多大な尽力によって成り立っています。4月からは働き方改革も始まります。医療従事者の方の働き方を改善して、楽しく働き甲斐のある職場を構築していきたいと考えております。急速な医療技術の進歩、生成AIの登場、高齢化等で医療の状況は大きく変わりつつありますが、多くの患者様が治癒し健康な人生を送ることができる良い時代になりつつあると感じています。この熊本労災病院で地域の方々の健康と命を守り、同時に医療従事者の方々にとっても素晴らしい職場を創り上げて行きます。
松岡 雅雄
略歴- 昭和57年3月
- 熊本大学医学部卒業
- 昭和57年4月
- 熊本大学医学部附属病院
- 昭和63年3月
- 熊本大学大学院医学研究科卒業
- 昭和63年6月
- カリフォルニア大学バークレー校
- 平成4年7月
- 熊本大学医学部附属病院助手
- 平成10年5月
- 熊本大学医学部附属病院講師
- 平成11年4月
- 京都大学ウイルス研究所附属エイズ研究施設教授
- 平成18年4月
- ウイルス研究所副所長
- 平成22年4月
- ウイルス研究所所長
- 平成26年4月
- ウイルス研究所附属ヒトレトロウイルス研究施設長
- 平成28年7月
- 熊本大学大学院生命科学研究部教授
京都大学ウイルス・再生医科学研究所客員教授 - 平成30年4月
- 熊本大学医学部附属病院がんセンター長(併任)、治験支援センター長(併任)
- 平成31年4月
- 熊本大学病院輸血・細胞治療部部長(併任)
熊本大学大学院生命科学研究部副部長(併任) - 平成31年10月
- 熊本大学病院副病院長(併任)
- 令和2年4月
- 熊本大学病院中央検査部長(併任)
京都大学名誉教授 - 令和5年4月
- 熊本大学シニア教授
- 令和6年4月
- 熊本労災病院 院長